マッサージ店が時間制である理由

 商品やサービスの適正な価格であるかどうかの判断基準はそれらを購入する人の価値の置き方に左右されるが、基本的に人はサービスや商品を提供される間での過程で客観的に数値化できる事実を見て提示された価格が適正であるかどうかを判断している。商品には、それを作る為の原材料があり、多くの人の手によって原料が製品に生まれ変わり、輸送されて小売店に陳列されるという事実を人は認識しているため、適正な価格かどうかはある程度計算できる。レストランも料理を作る原材料とそれを調理する多くの人が関わっているのでお金を出しやすい。しかし人は技術にお金を支払うということに抵抗がある。商品やサービスの過程よりも結果にフォーカスしている"技術"という商品は適正価格を認識しづらいのだ。例えば、日本にはデザインに対価を支払うことを躊躇う会社が多い。ホームページのデザインをしても思うように評価されなかったり、集客の成功要因の一つにデザインがあるという理解がないために不当に値切られたり、度重なる仕様変更をもとめられたりする。デザインはそれこそ閃きと抜群の感性があれば、ほんの短期間で非常に質の高い作品を作り上げる事ができる。しかし従来の価値を置く基準で商品やサービスが提供される過程を重視すると、デザインの場合 例えば、長い時間をかけて苦労して創り上げたという事実がその商品の適正価格を決定するため、わずか数日で創り上げた物は質が低い物だと認識されてしまうのである。  これに似た例で、マッサージ店が時間制である理由もわかる。さて、多くの人がマッサージ店に行く目的が単純に疲れを取るというものではなくて、心地よい時間を満喫したいと思うのも長い時間をかけて疲れを取るプロセスに価値を感じているからである。もし、体を知り尽くし、ありとあらゆるマッサージを熟知した最高の施術師がわずか10分でたまった疲れを全て解消できるとしたら、本来2時間かけてやるマッサージと同等の価格を支払えるだろうか? おそらくほとんどの人は難色を示すのではないだろうか。2時間かけて施術をしてもらったという事実、そして2時間気持ちよさとともに疲れが解消されているという感覚が価値を生み出している。ゆえにマッサージには結果よりも時間という概念が多くの人にとって対価を支払いやすいものにしている。